キャッチコピー閃き図鑑

「当たり前」を問い直し、プロダクトの真価を見つけるキャッチコピーの発想法

Tags: キャッチコピー発想法, 価値訴求, 差別化戦略, プロダクトマーケティング, 事例分析

はじめに:埋もれた「真価」を発見する視点

マーケティング担当者の皆様にとって、自社プロダクトやサービスのキャッチコピー作成は重要な業務の一つかと思います。機能やスペック、価格など、表面的な特徴を伝えることはもちろん大切ですが、競合との差別化が進む現代においては、それだけでは読者の心を掴むのは難しくなっています。

読者の深層心理に響き、行動を促すためには、プロダクトやサービスの「真価」を伝えることが不可欠です。しかし、この「真価」は、開発者やマーケティング担当者にとってはあまりにも身近すぎて、「当たり前」として見過ごされてしまうことがあります。

本稿では、この見過ごされがちな「当たり前」の中に潜む「真価」を発見し、説得力のあるキャッチコピーに昇華するための発想法を解説します。自社のプロダクトを新たな視点で見つめ直すことで、これまで気づかなかった独自の強みや、読者に深く刺さる訴求ポイントが見つかるかもしれません。

「当たり前」を問い直すとは? なぜそれが重要か

プロダクト開発の初期段階から関わっている方ほど、そのプロダクトに関する知識は深く、細部にまで精通しています。しかし、その知識が深すぎるあまり、一般的なユーザーが驚くような点や、競合にはないユニークな特徴を「これは当然のこと」「みんな知っているだろう」と考えてしまいがちです。これが「当たり前」の罠です。

一方、ユーザーはプロダクトを初めて利用する際、開発側の「当たり前」に気づき、そこに価値を見出すことがあります。あるいは、長年利用している中で、その「当たり前」があることでいかに自分の生活が助けられているかに気づくこともあります。

「当たり前」を問い直すとは、まさにこの「開発側の当たり前」と「ユーザーが価値を感じるポイント」のズレに意識的に目を向け、そこに隠された真価を発見するプロセスです。この真価こそが、他のプロダクトにはない「らしさ」であり、読者の心に響く強力な訴求点となります。

「当たり前」の中の真価を発見する具体的なアプローチ

では、具体的にどのようにして「当たり前」を問い直し、真価を発見すれば良いのでしょうか。いくつかの視点をご紹介します。

1. 開発背景やストーリーを深掘りする

プロダクトが生まれた背景には、何らかの課題意識や情熱があったはずです。なぜこの機能が開発されたのか? どのような苦労があったのか? 開発者の譲れないこだわりは何か? こうしたストーリーの中には、機能やスペックだけでは伝わらない情緒的な価値や、信頼性の根拠が隠されています。

例えば、「この素材を採用するために、〇〇という困難な技術課題を△年かけて克服しました」といった事実は、単に「丈夫な素材を使用」と伝えるよりも、読者の信頼と共感を呼びやすいでしょう。

2. ユーザーの行動や無意識の恩恵を観察する

ユーザーは、プロダクトの特定の機能を当たり前のように利用しているかもしれません。しかし、その「当たり前」の操作によって、ユーザーは無意識のうちに時間や手間を省けていたり、ストレスから解放されていたりします。ユーザーインタビューやカスタマーサポートに寄せられる声、時にはユーザーの行動観察を通じて、「この機能があるおかげで、実はこんなに助かっている」という隠れたニーズやベネフィットを探ります。

例:「ファイル保存のたびに気にしていたあの手間がなくなりました」といったコピーは、多くのユーザーが無意識に感じていた「手間」という「当たり前」を問い直し、その機能の真価を明確に伝えています。

3. 社内の異なる部門の視点を取り入れる

開発部門にとっての「当たり前」は、営業部門やサポート部門、あるいは管理部門から見れば、実は非常にユニークで他社にはない強みかもしれません。部署を横断したヒアリングやワークショップを実施し、それぞれの立場で感じるプロダクトの「すごいところ」「実は助かっているところ」を共有してもらうことで、開発者だけでは気づけなかった真価が明らかになることがあります。

特に、直接ユーザーと接するカスタマーサポートの担当者は、ユーザーがどのような点に驚き、感謝しているかを知っています。彼らの視点は、真価発見の宝庫と言えるでしょう。

4. 「〜ではない」という逆説的な視点を持つ

ある特徴を説明する際に、単に「〜です」と述べるだけでなく、「〜ではない」という形で問い直してみることも有効です。

例えば、「この製品は使いやすい」という「当たり前」に対して、「使いやすい、というよりは、もはや存在を忘れるほど、あなたの日常に溶け込みます」のように表現することで、単なる使いやすさを超えた、より深いベネフィット(ストレスからの解放、生活への一体化)を示唆できます。

これは、読者が抱いているかもしれない「使いやすいと言っても、どうせ多少の学習は必要だろう」といった「当たり前」の認識を優しく覆し、プロダクトの真価へと導く手法とも言えます。

発見した「真価」をキャッチコピーに落とし込むステップ

「当たり前」を問い直すことで真価が見つかったら、それを読者の心に響くキャッチコピーに落とし込みます。

  1. 真価を明確な言葉にする: 発見した真価を、曖昧さのない短い言葉で表現してみましょう。「時短になる」ではなく、「コーヒーを淹れる間に、今日のToDoリストが整理できる」のように、より具体的でイメージしやすい言葉にします。
  2. ターゲットの課題・願望と結びつける: その真価が、ターゲット読者のどのような課題を解決し、どのような願望を叶えるのかを明確にします。「コーヒーを淹れる間にタスク整理」という真価が、忙しいビジネスパーソンの「朝の時間を有効活用したい」「効率的に仕事を開始したい」という願望に結びつくことを意識します。
  3. 表現技法を検討する: 問いかけ、比喩、対比、短いストーリーなど、読者の注意を引き、記憶に残りやすい表現技法を組み合わせることを検討します。発見した真価が最も際立つ表現方法を選びます。
  4. 簡潔さと具体性のバランスを取る: キャッチコピーは短い方が良い場合が多いですが、簡潔にしすぎて真価が伝わらなくなっては意味がありません。真価を示す具体的なエピソードや数字を効果的に盛り込みながら、リズム感の良い言葉を選びます。

事例に学ぶ「当たり前」の問い直し

具体的なプロダクト名を挙げることは控えますが、「当たり前」を問い直すことで成功したと思われるキャッチコピーの事例をいくつかご紹介します。

これらの事例は、いずれも開発側が「当然」と考えていたことや、ユーザーが見過ごしがちなプロダクトの側面を掘り下げ、そこに隠された読者にとっての価値(真価)を見つけ出し、効果的に表現しています。

データに基づいた効果測定と改善への視点

「当たり前」を問い直して生まれたキャッチコピーが、本当に読者の心に響き、行動を促しているかは、データに基づいて検証することが重要です。

検証の結果、期待した効果が得られない場合は、発見した真価の伝え方が適切か、そもそもその真価がターゲットにとって魅力的かなどを再度検討し、コピーを改善していく必要があります。データは、単に成果を測るだけでなく、真価を伝えるためのアプローチが正しかったか、あるいは改善点があるかを示唆してくれる羅針盤となります。

まとめ

プロダクトやサービスの「当たり前」の中に、読者の心を掴むための「真価」が隠されている可能性は十分にあります。開発背景、ユーザーの無意識の行動、社内の異なる視点、逆説的な問い直しといったアプローチを通じて、この見過ごされがちな真価を発見することができます。

発見した真価は、ターゲットの課題や願望と結びつけ、具体的な言葉やエピソード、そして効果的な表現技法を用いてキャッチコピーに落とし込みます。そして、作成したキャッチコピーの効果をデータに基づいて測定し、継続的に改善していくことで、読者にとってより響く、競争力の高いメッセージングが可能になります。

ぜひ、皆様のプロダクトの「当たり前」を改めて見つめ直し、そこに眠る真価を発見する旅に出てください。その発見が、次の成果に繋がるキャッチコピーを生み出すはずです。